鬼北町の中心は近永駅だ。予土線は北宇和島から高知の若井駅までの路線だ。鬼北町の近永駅を通る。
到着して次の日の朝、「この近くに温泉はありますか」とまったく事前の情報なしに尋ねたら、「あります。あります」と言われたのがポッポ温泉である。
予土線で近永駅の次が出目駅、そしてその次が松丸駅だ。松丸駅は珍しい駅舎の2階が温泉になっている。駅前に足湯もある。だからポッポ温泉という。
列車の本数が限られているので、午後4時代に近永から出発して、5時代に戻ってくる列車を調べてもらった。
近永駅に時刻の10分ほど前に行くと、駅舎の窓口に駅員がいて、「松代まで一人」というと、紙の切符にはんこを押してくれた。10年以上、紙の切符など買ったことがない。
改札は開きっぱなしで、入ろうとしたら、「まだ早いですよ」と在勤60年のような駅員が言う。
近くの高等学校の生徒が数人待っていたが、だれもプラットフォームには行かないで駅舎にとどまっていた。
しばらくして、遠くで「ボー」と音が聞こえたので、プラットフォームに行こうかとしたら、もう列車が見えたので、(渡っちゃおうかな)と思ったが、都会のセッカチと思われるといけないので、我慢した。
学生たちも、みんな駅舎に留まって、列車が通り過ぎて駅に到着するのを見守っていた。
プラットフォームに停まった1両のワンマン列車。そこにゆっくりと歩いていく学生たち。
乗客は全部で4名。
出発したら私はまっすぐに運転手の横にいって、特等席立ち見席から進行方向を見るポジションに付いた。列車が走り出し、単線狭軌の1両の気動車が走り出した。
音も懐かしい。緑のトンネルの中を走り抜ける。大好きな列車のイメージだ。小さなジオラマを走り抜けるモデルの電車のような列車だ。
近永駅から出発して、出目駅を通り、松代駅に到着して、高齢者割引で東京の銭湯と同じ450円でゆっくりと入れる温泉だ。のんびり、ゆっくりの湯客が露天風呂を楽しんでいた。
帰りにはもう暗くなっていた。
行きと同じ運転手が、走らせていた。暗やみの林の中を1両の列車が、くねくね道を走って行く。私は目を凝らせて前方を楽しんでいた。
