考えるヒント 文字を書くことの衝撃

2010年に私は足立区の東京いずみ幼稚園で、年長5歳の子供たちに、「ドルフィン」アイデアマラソンを開始した。

「どるふぃん」アイデアマラソンとは、毎日一つの質問を出して、それに関しての小さな絵を描き、自分の意見をノートに書く。ノートは、マルマンのファイルノートで、私のアイデアマラソンと同じノートである。

これを年長の学年の12月から卒業の3月までの4か月間、毎日実行する。土日、休日はもちろん、正月も課題は家に持ち帰って、毎日一つを、卒業した後、3月末まで続ける。

内容は、ファンタジー、ちょっとサイエンス、子供なりの危機管理、食べ物、未来への思考と期待など、多彩だ。日本のおとぎ話や、イソップ物語を変化させて、質問にすることも多い。

たとえば、「ウサギと亀」で、前回の勝負に居眠りで負けてしまったウサギが腹を立てて、亀に「もう一度勝負しよう」と言ってきた。さあ、君たちが亀ならどう作戦を立てるか?というような質問だ。いずれの質問も正しい答えは決まっていない。一つだけでもない。

この幼稚園では積極的に文字を読むことを教えているが、書くことはあえて教えていない。面白いことに文字の読むことを教えると、簡単な文字は書くようになってくる。

もっと正確に言えば、書きたいと思うようになってくる。子どもにも漢字は絵として映るので、“描きたい”となるのだろう。

子供たちに課題を与えて、子供たちが自分で何かを考えると、子供たちはそれを無償にノートに書きたくなって、文字に表したくなって小さな知的爆発を起こしそうな様子になる。

ひらがな、カタカナと簡単な漢字は書けるが、もっと難しい漢字も、子供たちの思考を文字に表したいという内部の欲求から、手を挙げて、先生に字を尋ねる。

先生がクラスの中を走り回って、文字の書き方を教えることもあるが、徐々に慣れてくる。

どるふぃんでは、子供たちの“すごい答え”も時にあるが、平凡な答えもある。その時には考えられないこともある。それでも一つ一つ真面目に考えて書かれたノートの内容を見て、本当に感動した。私は「どるふぃん」の開始時と3か月後の2回、トーランス式の創造性テストを実施したところ、発想数と綿密さで、有意の向上が見られた。この5歳の時期の、文字学習、文字を書くことの大切さを再確認した。5歳の子供が自分の発想を毎日出して、ノートに書き留めるというのは、途方もないことで、その子供が小学校に入学した後だけでなく、人生全体に創造性の影響を与えるのではないだろうか。

すでに、これら「どるふぃん」を体験し、小学校に進んだ子供たちの中から、発明コンクールや作文コンテストなどで賞を取る子供たちが出てきている。効果は着実に出ている。

日本は、今後とも国際的に高い生産性を創り出すために、創造性を高める必要があり、その原点は、4歳、5歳の時からの毎日設問に思考して書きとめる創造的体験を進める必要があると思う。

逆にいえば、4歳から5歳の子供達から文字を教え、簡単な表現で書けるようにするだけで、日本の知的レベル、創造性は何倍にも高くなると確信している。

もっとも難しいのは、このどるふぃんの課題を作ることだ。5歳に適した質問というのは、本当に難しい。私は研究所でどるふぃんの課題を考えるのに、膨大な時間を掛けてきた。それらを東京いずみ幼稚園に送り、一つ一つの設問を教育現場の立場から吟味してもらう。

設問が難しすぎたりすることもある。問題が学校の勉強のように百科事典や、グーグルなどを使う設問もダメとされる。貴史先生の考えた設問も加えてこれまで、苦労に苦労を重ねて作り上げてきた課題は現在120問、約4か月分ある。私と幼稚園の先生方の共同の労作である。

今年から、これらの課題を、1年分に増やす作業に取り掛かった。更に難しく感じている。私が年を取りすぎてきているのではないかと思っている。

「どるふぃん」アイデアマラソンは、幼稚園生向けの毎日設問配布の方法だが、すでに小学校1年生から3年生までの1100個の設問は完成していて、毎年約150名の小学生たちがこれらの設問のシャワーを浴びている。

私は4歳、5歳の子供たちに、文字を読むことから始めるべきだと思っている。現代の子供たちの周りには、半世紀まえには考えられなかったほどの情報量が取り巻いていて、それらの情報は川の水のように、子どもたちの周りを流れている。

子どもたちが情報を理解しないで押し流されていくのを防いで、文字を読んで情報を漕ぎ分けて泳ぐことを教える必要があると思う。欧米の子供たちのアルファベットと違って、極端には無数の漢字の読み、感じ、印象を身に付けていく必要がある。日本の子供たちには、出発点で欧米とは異なった文字文化の中で成長していく必要があるのだ。それを欧米と同じ環境のスタートラインで考えてはならない。日本語では、文字は、できるだけ早くから教える必要があると思う。読むことと書くことを別々に教えても良いのではないかと思っている。

今週の考えるヒントは、
(1)小さな子供たちにできるだけ早く文字を読めるようにするにはどうすれば良いだろうか?
(2)文科省の漢字の学年別割り当てを廃止させるにはどうすればよいだろうか?
(3)小さな子供たちに与えるファンタジーの質問を考えよう。

さあ、アイデアマラソンは進んでいますか?誰もが考えることはたくさんあるはずで、自分の考えを書き残すことは、その人の人生を残すことにつながります。

時には近況をお知らせください。

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