考えるヒント 制覇 3 市場圧倒製品とは

“制覇”と言う言葉は、やはり不適当だった。このエッセイでは、“圧倒”という言葉に変えた。

 1971年の2月に、シャープが携帯式の電卓を世界で初めて発売した時、私は三井物産入社直前だったが、すべての貯金をはたき、親戚を3件回ってお祝いを集め、シャープの電卓マイクロコンペットを購入して入社した。

 当時、入社した時、三井物産の社員(17000人)で、個人で電卓を持っていたのは、私一人だった。営業部の電気機械部に配属になったが、私以外は全員がそろばんか、機械式のタイガー計算機をグルグルまわしていた。

 私の電卓は無敵だった。元込めの火縄銃と較べて私の電卓は機関銃だった。

取引していたメーカーの人も1971年の年末ころまでは電卓は持っていなかったので、私の電卓を使いたいために、私はメーカーの担当者に呼ばれたことが何度もある。次の年に、カシオがカシオミニという電卓の廉価版を出して、それ以降は電卓はどんどん、全員が持ち始めた。そして私は海外に出て行った。当時のアフリカ大陸に電卓が1台も無かった時代で、電卓で計算をしていることに人々は驚嘆の顔をした。

40年前に、私は一人で、東欧を鉄道で旅していた。

当時は、カバンにはノートと発売直後のソニーのウォークマン(初号機)を入れていた。

当時はユーゴスラヴィアと呼ばれていたが、現在のクロアチアのザグレブの鉄道駅で、数時間乗り換えの列車を待っていた。駅のホームには、ベンチが一つあって、私とユーゴスラビア人の若者の二人だった。

 私は首からウォークマンを掛けて、簡易なヘッドホンで聞いていたが、どんな曲を聞いていたかはまったく覚えていない。数時間も同じベンチに座っているので、私は若者に、ヘッドホンを渡して、「聞いてみないか」と、誰でも分かるジェスチャーをした、少し怪訝な顔をしたが、耳に付けたときの若者の顔は、ワーッと花が咲いた。

 現地語で、何か言ったが、私には、「すごーい」と聞こえた。彼は耳のイヤホンを両手で覆って、曲が終わるまで聞いていたが、終わった時、私にヘッドホンを返しながら、英語で、「日本はいいな。日本に行きたいな」と泣きそうな顔をして言っていたのを覚えている。

 カシオのデジカメが発売された時、私はベトナム駐在していた。訪問者に持ってきてもらい、世界で初めてのデジカメQV-10を使い始めた時、どこで写真を取っても、ベトナム政府のえらいさんの写真を取っても、必ずカメラの画面の写真を見せた。その時のベトナム人たちの驚きの顔は、未だに覚えている。

 私はデジカメが昔のカメラを駆逐するだろうと、その時から確信していた。

ビデオカメラもどんどん小型化した。小型の日本語ワープロに印刷機の内蔵したカシオのHW-300は、その当時の最高の技術だった。

こうした新製品、新技術の思い出が、私のビジネスマンとしての歴史にしみこんでいる。日本のメーカーの創造性の自信を私は感じることができた。海外駐在していたが、日本でどんな新しい製品が出てくるのかが、私の楽しみの一つだった。

雑誌のモノマガジン、ダイムなども、日本製の新製品を山ほど紹介していた。日本製の特に電子機器は、圧倒的だった。そして面白かった。私が覚えているだけで、デジカメは数十台、ICレコーダーは15台、ワープロは、15台、パソコンは20台ほどを購入したようだ。新しい機能、新しい電子機器は、私の誇りだった。日本の誇りだった。

私はそれら新製品を次々に身に付けて使いながら、海外でのビジネスを進めていたのだ。

現在、日本のメーカーは、元気さを失った。ソニーは、ゲーム機と凝りすぎのカメラに注力している。三洋はなくなり、シャープは外資に、東芝も元気なく、Panasonicも苦しんでいる。デジカメはスマホカメラに敗北している。

ノートパソコンでは、処理速度は非常に早くなって、電池も長く使えるが、国産メーカーは、まったく元気がない。価格も、国産品は非現実的に高価だ。電子機器の市場は、米国、中国、台湾、韓国に完全にとって代わられた。

 CPUの速度とメモリーの容量は大きくなったが、それ以外の画期的な技術革新がみられない。3Dプリンターも一時の活況を失いつつあるし、日本のメーカーは製造していない。ドローンも日本のメーカーはさすが手を出さなかった。

 今は、深く潜行しているのは、自動運転車だ。かっては、東芝も、日立も、パナソニックも、自分たち独自に自動運転車を製造するチャンスと能力が十分にあったが、自動車メーカーへの遠慮とガッツが無かったので、手遅れになってしまった。

 日本のメーカーの発想能力が低下したのではなく、必死になって考えて、面白い発想をやってみようとイチかバチかを賭けることがなくなったのだろう。

日本製品が面白くなくなった。今の若者たちとモノ系の雑誌は気の毒だ。

 日本が以前のように市場を“圧倒”する新技術を見せることはないのだろうか?“市場を圧倒する商品”には、大きく分けて2種類ある。

(1)新しい、画期的な技術の新製品で、圧倒する“技術革新圧倒商品”。

(2)今までの製品の価格と比べて大幅に安くなった製品で、品質は若干不安なレベルから始まって、徐々に改善されるもの。

 上記の悲惨な状況であるが、私は日本のメーカーが総力を挙げて進めるべき商品の項目は、民生用・家庭用のロボットであると考えている。民生用・家庭用、介護用のロボットは、日本の今までの商品の特徴の精緻さ、精密さが必要なものである。家庭用のロボットの指先は、生卵を割らずに持てる繊細さを実現しなければならない。日本のおもてなしと、気配りをAIで、繊細さを極高精度の金型と微細な組み立て技術によって、私たちの少子化の未来を支えるのは日本製のロボットだと信じている。万能の家庭用ロボットに関しては、私自身が長年のコンセプトを持っている。生きている限り、チャンスがあれば実現したいと思っている。

考えるヒント

(1)日本製品を持っていたことでのエピソードはあるか?

(2)日本のメーカーが進むべき方向は何か?

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