考えるヒント アイデアマラソン哲学 8-4 与えられた課題分野の課題

学校でも、会社でも、研究所でも、場合によっては家でも、解決するべき課題が与えられると、脳は思考を開始する。常識的に、今までの体験、知識、そして連想を総動員して発想を出すが、課題がはっきりしていれば、脳は動きやすい。

アイデアマラソンを長年やっていると、課題が与えられることは、恵まれた環境だと思うようになる。その余裕が良い発想をたくさん出す要因となるかもしれない。

ここで、すごく大事なことが一つある。それは課題を与えられた時に発想を出すのは大事なことだが、たとえば何人かの会議で、課題を与えられて、その瞬間に良い発想、最高の発想、決定的な発想が出るものではないということだ。

発想は、考えて、考えて、考えて、連想や空想に偶然まで入れて、時間的要素を足して、考え付くものを全部並べて、それらを自由に議論して初めて使える、採用できる、あるいは画期的な発想が見つかるということ。発想が出る場所も様々だ。リラックスして美味しいコーヒー、場合にはうまい酒を飲みながらの発想会というのもありだ。

すなわち発想を求めようとするならば、時間的要素を初めから加味して、勧めるべきであるということだ。

会議で図って、その場で良い発想がでなかったからがっかりする必要はない。これは主宰者側も、参加側も同じだ。ここに会議の前に一定時間の特定の課題についての事前検討時間があれば、それだけ良い発想が出る条件となる。

つまり、課題が分かっていれば、会議などの前に、その課題を会議の参加予定者に事前に、一定期間前に配布しておく必要がある。注意しなければいけないのは、この場合も、その会議参加予定者が、与えられた期間を最大有効活用して、アイデアマラソンを実行して多数の発想をため込むことが肝要だ。

会社の存亡にかかわることであるならば、危機意識も高く、たとえばその課題の解決案や危機回避の案を、「毎日10件ずつ、1週間、すなわち70件考えて、提出するんだ」と指示を受けても、アイデアマラソンの毎日積み上げ方式がはっきりとしていなければ、ただただ、だらだらと時間が過ぎて、前日に慌てて10個ほどの発想を出して、「これだけしか出ませんでした」と詫びてしまうことになる。これは主宰者から見れば一番イライラする。「危機感が欠如しているのでは」となるからだ。ただ、毎日の積み上げをしていなかっただけだが。

アイデアマラソンの方式とノートと実行内容が明確ならば、毎日その課題に関しての発想を全員が(たとえ発想が一部重なってでも)そろえてしまうことができる。

つまり、アイデアマラソンをフルに活用しようとすると、事前に一定の日数を考慮した形式を考えた方が合理的だし、早く見つけることができるということになる。

アイデアマラソンで事前検討発想抽出期間→会議の前に全発想提出→全リスト作成→ショートリスト(最終選択リスト)作成→そして会議

となるべきである。これを「アイデアマラソン式発想準備セット」と名付けた。

このセットの中で、非常に微妙なのは、「ショートリスト作成」のステップだ。アイデアマラソン型式で、全員から毎日の発想が集結された後、それらをリストアップして、最終選択リストに載せる時に、せっかく出ている独創的なものや、面白い発想を消してしまったら大きな損失になりかねない。そのために、ショートリスト作成を一人でやることは、偏見で発想を潰してしまう危険性がある。

そこでショートリストを作成するのは、その課題に長けた委員会のようなメンバーが全リストに点数をつけて合計点を図ることが大切だ。その場合にも、奇抜発想と、不可能発想、異次元発想も参考までに残すことが望ましい。

更に、このステップを、二重、三重、二回、三回と繰り返して煮詰めていくことで、もっと素晴らしい発想がでる可能性がある。

(1)K大手家電の場合

 15名で冷蔵庫の発想を2週間アイデアマラソンを集中させて、その間に出た発想数は合計で600個を超えた。15名もいるのだから、平均では一日に3個ほどの発想数である。

 これを全部社内のLANで集めて、リスト化した。そして、発想委員会7名が全員で、全600個の発想をチェックして、A、B、C、D(ダメ)、そしてQ(異形)で点数を付けた。すると、冷蔵庫の次世代のモデルに組み込みたいという形が見えてきた。

(2)Fメディカルの場合

 ドイツ本社の医療機器メーカーでアイデアマラソンの講演をした後、その会社の技師長からホテルに電話があり、長年解決できないでいる重要な問題を、アイデアマラソンを活用して解決するには、どうすればよいかと尋ねられた。

 私は彼のカリスマ性とチーム10名全員の危機感を確認して、次のように提案した。

①まず2週間、毎日10個ずつ、その課題の解決案をノートに書き、提出する。

②チームの代表が、その案をリスト化して、会議にかける。

③たぶん、そのリストの中では、問題を解決できるほどの発想は出ていないだろうから、技師長が全員の前で、「中に、ちょっと面白いアイデアはあるが、こんなのでは到底ダメだ。これじゃあ、会社はもたない」と怒り狂って宣言断言して、机をひっくり返すような発言をする。

④そこで、副技師長に「技師長、まあ、そうがっかりしないで、もう2週間、毎日発想を出してみましょう。今日のリストは全員持っているので、面白い方向も少し見えています。いいよな、みんな?」と、切り返すこと。

⑤実は、本当の高い意識のアイデアマラソンの発想は、この瞬間から始まるからだ。そして2週間、さらに毎日発想を集めて、再度会議を開いてください。

「なるほど、やってみましょう」と技師長が言っていた。

3か月後に技師長からメールが入って、「おかげさまで、問題が解決しました。ありがとうございます」となった。

 問題の内容は知らないが、とにかくアイデアマラソンで解決できたようだ。

(3)D大手月刊誌編集部

 月刊誌、週刊誌の企画会議はどこの出版社でも無限地獄だ。企画の良し悪しで、雑誌の売り上げはまったく違ってくる。編集部員は、今の記事を何本も書きながら、次の月(週)の記事の取材を計画し、次々の月(週)の企画を提案しなければいけない。編集長だって同じ船に乗っている。彼も企画を出すことは同じだ。

 オーナーも参加の毎月2回の企画会議は、編集長にも、全編集部員にとっても強烈なストレスとなり、「無限地獄のようです」と編集長が言われていた。

そこでその編集長は、まず自分からアイデアマラソンを導入して、企画発想をこつこつと溜めだした。

 すると3か月ほどで、効果がでてきた。企画案のストックに余裕が出始めたのだ。提案する企画案よりも、溜めている企画案の数と種類が増え始めた。毎日考えて書き溜めていることの効果だった。

 これは大きな変化を作った。初めて企画会議を待ち望むようにもなった。そして、ストレスが下がった。もちろんその編集長が出す発想が全部採用されたわけではないが、ストックの水量を十分に蓄えたダムのように、どっしりと構えることができて、仕事が安定した。

 その編集長は、「編集部員には全員、アイデアマラソンを勧めている」と言われていた。

 この出版社の編集会議の場合は、オーナーがカリスマ的に最終決定することになっている。最終決定のメカニズムもいつも同じパターンではいけない。

(4)大学の教授の提出論文数

 最近の大学の教員は、提出論文数で評価されポイントが決まり、研究費も増減されることが多い。このためには、常に新しい論文を書くことを念頭に置いておく必要がある。

 出した論文は、査読に耐えなければならないし、ジャーナルや学会での発表となって、ようやく公式に評価されることになる。

 新しい論文を企画するには、新しい発想や発見、実験、調査や理論が必要となる。それらの端緒を、アイデアマラソンで実行している教授が増えてきている。

「アイデアマラソンは、大学の教員としては、絶対に必要な知的道具だと思います」と、A教授は言っていた。

(5)アイデアマラソン式の問題解決ソリューション

アイデアマラソンにおいて、実際にこれまで使われたいくつかのソリューションのパターンを紹介しよう。

①3週間法 10名の参加者が、3週間毎日3個の発想を出し、ノートに記録する。毎日30個出る計算である。それを21日間続けるので、発想数は最低合計六三〇個になる。

②3か月法 同様に10名参加として、毎日3個で、3か月間(90日)として二七〇〇個となる。

③週末法  10名が、金、土、日の3日間、毎日10個の発想を記録する。これで三〇〇個

(注意 重なる発想は気にしない。また最低総発想数を三〇〇個以上にして、良い発想が混ざってくる可能性を期待する)

 通常、3か月待つことは課題や問題の緊急度によるが、なかなか難しい。一番多いのは3週間法である。

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