考えるヒント どうしてここで飲まないの?

 40年前、家族でキプロス島のラルナカ空港に到着した時、夜中前だったが、宿の手

配をしていなかった。

 暗い空港で多少のドルを交換し、観光案内で、1週間泊ることができる小さなア

パートを予約できた。ヨメサン、長男、二男と、四人でタクシーに乗り、空港から首

都ニコシアのアパートに到着し、鍵を受け取って部屋に入った時、ホッとしてドッと

疲れが出た。2DKの部屋には台所も、鍋ややかんなど、調理器具も備わっていた。家

賃は信じられないほど安かった。

無知は恐ろしい。当時すでにキプロスはキプロス紛争以来、北側一部とニコシアの一

部はトルコの領地だった。私達の到着したのは南側のキプロス共和国だった。今も同

じ膠着状態。こんなことも知らないでキプロスに来ていた。

二男はミルクを飲んで寝ていた。私達は持参したインスタント食品を食べることにし

たが、こんなにホッとしたら、ビールを飲みたいではないか。

アパートの入口の右隣にバーがあったことを思い出した。我慢しきれなくなって、私

は台所にある鍋を持って、そのバーに行った。夜中の1時過ぎても、そのバーは人が

たくさんいた。

カウンターへ行って、

「生ビール2杯をこの鍋に入れてくれないか」と頼むと、

「何で、ここで飲まないのだ?」と尋ねられた。

「ワイフと飲む。赤子がいるから来れない」というと、ニコニコ笑って、「OK」と

ジョッキ2杯を鍋に入れてくれた。

 私は「ヤッター」と鼻歌を歌いながら、生ビールを家に持ち帰り、機内でもらった

スナックを出し、飲んだ最初の一杯。ヨメサンも半杯ていど。「乾杯」

禁酒の某国からやってきて、夜中まで我慢して、冷えた生ビール。こんな最高の環境

で生ビール、不味いはずがない。目が見開くほど、旨かった。

あれから40年、私は都内に住んでいる。

飲む日、飲まない日を交互に1日ずつ配置しているが、何かあるとすぐ飲む日に変更

可能で、次の日を飲まない日にしている。飲まない日は、ノンアルビールを飲んでい

る。

1カ月ほど前に、家で生ビールを飲みたいと思った。コロナのこともあるから、外で

は(飲んでいるが)できるだけ飲まないようにして、家で生を飲みたいと思った。キ

リンが家庭用の生の配送を開始したが、価格も高いし、量も多い。いつも飲めると

せっかくの秀宝で憧れの生ビールが幻滅するかもしれない。

どこに鍋を持ち込むか?鍋を持っていくより、今は密閉の完全なペットボトル2

リットルがある。その日の消費期限で飲むなら、1リットルあれば十分だ。

しかし、生ビールのテイクアウェーは未だ無い。生ビールを安くしている店はそれで

お客が何かを食べてくれるから生を安くしている。そこに生ビールをテイクアウェー

は注文しにくい。大きな、立派なレストランだと、余計に生のテイクアウェーは頼み

にくい。気さくな、出入りが簡単な店が無いか?

「ここだ」という店をようやく見つけた。小さな店で、道路の角で、ガラス戸と暖

簾。中はカウンターだけ。生ビールのひねる蛇口ハンドルもついている。銀行強盗が

逃走経路を前もって調べるように、詳しくチェックした。空の2リットルのペットボ

トルを用意してパワーママチャリで、「飲む日」にその店に突入した。例によって

2重マスク付だ。以前なら完全に不審者だが、今はみんなマスク。みんな不審者

は、だれも不審者ではない。

カウンター内には若い女性、奥にマスターだろうか。本当に気さくな感じの店だっ

た。

「すみません」と空の「おーいお茶」のラベル付きの2リットルペットボトルを差し

出して、「生ビール2杯をこれに」

「はあ?」と言葉が通じていない。

「生を家に持ち帰りたいんです」と、半泣きの真剣さで話すと、

変な客が来たと、女性の顔が歪んで、

「マスター、生二つですって。このペットボトルに入れて持ち帰りだそうですが、

売っていいですか」

横にいたお客が、「どうしてここで飲まないの?」というから、「ヨメ…」と言いか

けて、「友人が来るので、生ビールでもてなしたい」と、嘘ついた。この年こいて、ヨメサンが赤子で手を離せないとは言えないね。

すると、その客、そしてそのカウンターの向いの客が、

「なるほど、生ビールでもてなしか、良いな」

「僕も家で生を飲みたい」と言う。

マスターが出てきて、

「どうした?」

「お客さんが、生ビールを、これに入れて欲しいんですって」

「今度は、飲みに来ますから」とダメ押し。これはやるさ。

「良いだろう。入れてあげなさい。2杯だから、その半分だよ」と少し顔をしかめた

のが印象的だった。

 女性は苦労して生の蛇口とペットボトルの口を合わせて、半分いれてくれた。二杯

分を支払って、ママチャリの籠に載せて、猛烈ダッシュで家に帰り、冷凍室で凍らせ

たビアガーデン流れのジョッキーに入れて、大きく一口。

「ぐわー」こ、これだ。ヨメサンもコップ半分を飲んだ。つまみを加えて、「うめ

え」

持ち帰り生ビールはキプロス以来だった。

考えるヒント 「どうしてここで飲まないの?」と言われて、スマートな答えを考え

る。必ず尋ねられるからね。ビアガーデンから自宅までの加圧式生ビール用小型搬送専用容器を考えよう。

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