数年前にオーストラリアのメルボルンで学会があり、滞在した時、週末にメルボルンの水族館を見学した。その時、水族館のショップで土産物を買おうと入って、チェックして驚いた。かなりの広さのミュージアムショップの棚に置かれているものは、すべて中国製だった。私は意地になって、オーストラリア製のものを探したが、まったくなかった(今はどうか、知らないよ)。 何となあ。オーストラリアには、グレートバリアリーフのような世界最大の海洋資源があり、そこには様々な珍しい生物がいる。それらのフィギュアですら、すべて中国製だった。その時に、私のアイデアマラソンノートには、オーストラリアへ移住して、オーストラリアのお土産を作ってはどうか。オーストラリアの動物・生物のフィギュアの土産物をオーストラリアで製造して、大きく『オーストラリア製』と書いて、売り出せば、多少高くても売れるはず」 これは日本でも同じだ。たとえばピーナッツ。日本で売られているピーナッツの99%は中国製だ。もちろん生産の規模が桁違いだろうが、私はおじいさんがお菓子屋さんをしていたので、小学校時代の日本のピーナッツ(当時は南京豆と言っていた)の新豆のおいしさは、格別だった。今は、特別の店に行かないと日本産の豆はない。 それを思い出したのが、今回のパンデミックだ。「基礎医療衛生関係品目」として、マスクから始まって、防御服、防御顔面スクリーン、手袋、ガーゼ、包帯、ありとあらゆるものが全部中国製になっていることだ。 衛生品関係で、これは憶測だが、世界中の外科手術で使われるウイルスを通さない3M社のN95マスクは、ほとんど中国での製造になっていたのではないだろうか。それを3M社から知らされたトランプ大統領は激怒したようだ(これは憶測)。 N95どころか、フランス、イタリア、スペインでは、国内で普通のマスクを作るところはどこにも無くなっていたのではないか(これも憶測)。イタリアの高級ブランドのバッグや服を作っているのは、中国人だという。イタリアも、スペインも、医師や看護師たちは、慌てて手元の在庫のマスクを使いきり、マスクをしないより、している方がマシとばかりに、同じ汚染されたマスクを、何日も使い続けて感染した。感染患者の看護をすれば、医師や看護師が感染するのは当然だ。手作りで間に合うものではない。 日本での医療品の正確なデータは分からないが、日本の情況もかなり似ていると思う。ただ、日本人による品質チェックを現地で行っていた商品もあるかもしれない。また高価な日本製も数量は少ないがまだ残っていたのだろう。 それに加えて、マスクの鼻を抑える金属片が全部中国製だとは、本当に驚いた。だから金属片が中国からとどかないから、マスクを作れないんだという説明を聞いたことがある。 ローマ帝国も、ほぼすべて帝国の領地からの輸入に頼っていた。そのために、一朝何かがあり、何かの輸入が停まると、もう高騰かパニックとなった。自分たちで何かをつくるなんて、ローマ人はまったく考えなくなっていた。 今のアメリカとヨーロッパだ。 (1)初めは、輸入部品が揃って、部品を組み立てるだけなら、安く作れますと中国は米国に提案したのだろう。その時の品質はかなり劣っていたはず。 (2)そこで品質管理をする日本の企業を入れるか、その専門家を中国に送りこんだ。そして何年もかけて、一応受け入れられる品質まで、向上させた。 (3)この状態でもまだ安い。それは安い労働力が、無尽蔵に入ってきたからだ。 (4)そして工場を拡張し、圧倒的な量を生産し始めた。圧倒的な数量を、納得できる品質で、安く供給できることは、世界の競合のメーカーを全部廃業に持ち込むことになる。これらは、すべて中国政府の意図であったから、政府の資金はいくらでも使えた。そして、歴史上最大のスマホ工場、パソコン工場、家電工場が作られた。同じ意図で、ありとあらゆる種類の商品の工場が作られて行って、まずは米国内の工場を完全消滅させ、米国メーカーの名前で、納入して世界中に売りさばいたから、米国にとっても大儲けの方法となった。米国でまともに作られているのは原子力潜水艦など、軍事品だけではないか。航空機も翼は、日本製のカーボンファイバーなどを使用している。ただ、米国と日本の間では政治の形態が同じ主義に基づいていることから、調整ができる。米国と中国は、政体がまったくことなるのだ。 (5)中国は、輸入していた組み立て部品を、どんどん中国国産に切り替えていった。もちろん中国にも膨大な利益をもたらした。 (7)米国は、登録されたデザインで、特許と資本を押さえておけば、いつまでも中国を自社のためだけの生産工場にしておけると考えた。それは甘かった。工場の品質管理・生産技術管理を学んだ中国人技術者たちをつかって、中国の官製資本家たちは、自分たちの製造会社を立ち上げた。同様に巨大な規模だった。 このように米国や日本は、当初、生産の技術を中国にトレーニングして、中国は生産を独立させたのだ。そして世界中に販売し始めた。圧倒的に安く、圧倒的な数量で、世界の市場を押さえた。 1編成の新幹線を輸出しただけで、あとはすべて中国製で生産できるまでの能力を中国がつけていた。すごい力だ。 (8)日本は製造機械を大量に中国に輸出してきた部分、現地で作って日本製のような顔をして日本で販売することも続けてきた。米国はこうして繊維から、金属、機械、電子機器すべてが中国製となったのだ。中国経済は、上記のパターンで、世界を抑えた。市場から見れば、ロシアもインドも中国製であふれている。そしてヨーロッパ、最後にアフリカも中国製でいっぱいだ。これらは、大規模生産式グローバル独占資本となった。 数十年かかったが、アメリカの大企業は、現在、ほぼ全社が製造を中国で行っている。中国で安く作って、国内に輸入、世界中に輸出すれば、国内で高価な製造をするよりも儲かるが、このような緊急の場合は、途端に塗炭の苦しみを味わうことになる。 話を医療関係に戻すと、国内でも製造できるようになっていることや、安全のための備蓄がなされてこそ、海外に製造を任せることが可能なはずだ。 パンデミックは、これからも起こる。 数十兆円もの財政出動をして、未来の日本に大きな負担を掛けてしまった今回の教訓は、医療関係の研究は、更に大掛かりに、多角的に資金と研究者を増大しなければ政治家も政府関係者も、官僚も、みんな公平に感染症の犠牲者になりうることが分かった。コロナで痛いほど学んだはずだ。 準備は対処よりはるかに安い。パンデミックに対して、医薬医療品国内製造品目と製造工場保持、あるいは工場と原料の動態保持が必要で、製品も最低備蓄数量を取り決めるのは政府の責務だ。兆の金がかかるはずがない。 未来に押し寄せてくるパンデミックは、今回よりも強烈なものかもしれない。 マスクも、現在は、多数の日本のメーカーが大忙しで増産中だが、私の勘としてもうすでに遅すぎて、マスクは、生産過剰状況だろう。日本国内にはマスクが溢れてきている。それと中国製の安価なマスクの膨大な量が輸入されてきている。そのことから国内マスクの暴落→製造会社の投げ売り→倒産となり、結局中国の製造だけが残ることになるのだろうか。政府も、国民も、国産製のマスクがリーズナブルな価格になったら、備蓄用に買っておこう。そして、買っていこう。 コロナで分かったことは、最終的な国家の力は、海外投資ではなくて、国内で、国民全体に必要なものを製造できるかということではないか。資本主義ではグローバルに対応できない。資本主義の次に来るのは、自国生産資本主義なのだ。自国で生産するもの、結局一番強く、資本だけを握り、資本だけを動かして、他国に製造を全部任せきった国々は、感染者と死者の急増で、最悪の状態を体験した。 今回のパンデミックにそなえるような品目の国内生産を守ることは、国家の防衛であることから、海外からのこれらの品目への低価格の輸入品に関税をかけることも、再検討しなければ、国家の安全が保てないことが証明された。WTO違反にはなるまい。 今回のコロナは、世界中の国々に、未来の危険を予測し、警戒し、準備する最後のチャンスとなるのかもしれない。まずは自国での安全と衛生の最低限度の蓄積と対応策の体制を整えるために、「国家安全保障に必要な医療衛生製品品目と製造設備の確保」の確認の必要がある。つまり、国内備蓄医療医薬品と製造工場保全品目をこの機に決めて欲しい。 考えるヒント (1)今、一度、自宅での備蓄の内容を考えてみよう。 (2)自粛で、配偶者や家族と一緒にいる時間が長くなった。家族や配偶者や恋人とアイデアマラソンを開始することを考えよう。 (注:上記の文中の憶測については、間違っていたら、いつでも撤回します) 補足 友人の外科医からのコメントで、ガーゼのことの説明を受けた。かっては国産のガーゼは、白十字などの国産のメーカーがたくさんあった。そこに中国製のガーゼが安く一応の品質で日本に輸入され始めた。白十字社も他の日本のメーカーも中国製の安値に太刀打ちできず。ついには、ガーゼの生産を停止した。日本製のガーゼが無くなったのだ。 日本のガーゼの供給は100%中国製になった。その途端に中国製のガーゼの質が落ちた。無競争だと、値段が上がり、質が下がる。外科医の友人は現場でそれを実感したが、国産品の供給がゼロとなっているので、品質が落ちても、他に無いから輸入品を使わざるを得なくなった。その後、中国のメーカーの間でも競争が激しくなり、品質が向上してきているという。 これは日本だけのことではない。きっと世界中のガーゼの供給をほぼ中国が握ってしまっているのかもしれない。(これも憶測) 中国が中国国内の感染症や手術や様々な需要のために、ガーゼの輸出を止めたら、世界中の国々では、手術が不可能になるではないか。