考えるヒント 夫婦のバイアス会話

すでに50年近く結婚してきたが、思い出してみると、何回か“反抗期”があった。もっと正確に言えば、相互反抗期だろう。

 その最大の課題は2つ。一つは子供たちの教育であり、もう一つはヨメサンの生きがいをヨメサンがつくる過程で口論が沸騰したと思う。一時期は、何を言っても反発の言葉がヨメサンから出てきた。どんな言い方をしても、「人に命令しないでよ」と言われた。そうなると、こちらも、「誰が命令しているんだ」と切り返す。そこから延々と口論が続いた。ヨメサンの外面(そとづら)はすごくよかったから、周り(私の両親を含んで)は全部私を責めた。一時は最悪の事態になるかもしれないと思ったほどだ。私の友人たちの何人かは、現場にたちあったので、その口論の状態が、樋口夫婦の普通の姿だと、未だに思っているはずだ。

息子たちが独立して、家庭を持って家を出た後、時々我が家に集まると、ヨメサンの言葉が急に私にきつくなる。私に指示をし始めるのだ。「それを片付けてよ」とか、「ほらほらほら」と、また、いつもの命令形の話になる。息子たちの前で威勢が強くなるのだ。これを「かまきり効果」(Mantis Effects)と名付けた。

腹が立つのは、私にごちゃごちゃ「躾がなっていない」「それしちゃだめ」「外でお食事できないわよ」とか、思いつける文句を言うのだ。ところが自分でも、同じことをしている。性格は違うが夫婦だからな。そんな時には、必ず私も指摘してバランスをとっておく。この自分でもやっているのに、人に文句を言う傾向を「蟹さんのお母さん現象」(Mom Crab Complaint Action)と名付けた。「子どもに真っ直ぐに歩きなさい」と小言を言うお母さん蟹が歩くと、という話だ。

しかし、ここ10年ほど前から、 きつい口論はお互いに急速に収まってきたように思う。まだ時々お互いの逆鱗に触れあうことがあるが…。

そこで、心理学のバイアスを調べ始めたのは、ヨメサンとの口論だった。これらの口論は、すべて「配偶者発言バイアス(Spouse Discussion Bias:SDB)」と、私は名付けた。配偶者が発言した言葉は、夫から妻へ、妻から夫への、相互に発言の理解に瞬間的にバイアスがかかって、理解してしまう。

その反射発言は、そのバイアスに乗っているので、ほんの少し、もらった発言の強さよりも、きつい味付けと言葉が選ばれている。そして、またそれより強い返答がかえってくる。

 そして、累乗的に強い発言は、強烈な発言になり、お互いのエゴが出て、もうどうしようもないところまで行く。この配偶者発言バイアスは、程度は違っても、どこの夫婦にも存在するのではないかとも思っている。この配偶者発言バイアスが、世界中で無数の離婚を作ってきたのだ。つまり「離婚症候群」(Divorce Syndrome :DS)の一原因である。SDBを起こさないようにと我慢している夫も妻もいるだろうが、私たちは違った。

 私の息子たちも、一時期は、「あの二人、もうあんまり時間が掛からないぞ。カウントダウンを始めよう。最終局面になるのに…。(3人の息子たちが協議を開始して)誰が、父ちゃんと一緒に生活する、誰が母ちゃんと」かいう、生々しい計画を立てたことがあったと後で聞いた。さもありなん。

 SDBを防ぐには、とにかくいかに口論していても、軽傷では、次の日にケロッとしているか、重症でも2日か3日で、もとに戻るという柔軟で、謙虚な姿勢が、私にあったからだ。

 ヨメサンが謝るわけないでしょう。けっきょく、私が折れてきたのだという自負と自信と自分を誉めた歴史だった。これがSDBの解決策だったのだ。思い出せば、亡くなった私の「父親は、母親の尻にひかれていたなあ」と、寂しそうに言うと、ヨメサンは、可愛げなしに、「それで良いのよ。それが当然なのよ」と一言多い。語調も悪い。「何い」と、そこからSDBが始まるのだ。

 SDBがごく普通に起こることを知っていることが夫婦の絆になるのかもしれない。

(注:いくつものバイアスを見つけては、ほくそ笑んでいるが、このSDBはもっとも重要なものだった。すでにこんな簡単なバイアスは、誰かが見つけていると思うが、知っている人がこのブログを読んだら、教えてください。すぐに「樋口が発見したバイアス」というのを取り下げます)

夫婦は、もともとまったく赤の他人だ。その赤の他人が数十年、いやもうすぐに半世紀になるとは、これはマルコポーロがベニスから、中国へ歩いて行って無事に帰って、盗賊と多数の国々を通過して、砂漠を越え、東洋の珍しい土産も持って、数十年後に、帰ることに近いほどの難しいことではないか。

そして、この10年ほどは、年にほんの数回しか、激しい口論が起こらなくなっている。素晴らしい進歩というか、理解というか、しかるべき高齢化に合わせたということか。不思議なことに、ヨメサン側も、ここに私が書いた同じバイアスを、私について言っていることだ。一つ違うのは、「似たもの夫婦」と言われるのを、ヨメサンは極端に侮辱だと取るが、私はどうってことはない。そんなものだろうと思っている点だ。

50年の結婚は、(私たちのお互いの性格からは)偉業だ!

考えるヒント

(1)今まで、誰かと口論して、クソーと思いながら、こちらから折れた経験はあるか。

(2)口論した相手が、ぐっと下手にでてきて、慌ててこちらも下手に出たことはあるか。

(3)結婚している方は、二人を糊付けしているのは、何かをここで考えて、自分で書いて、ほくそ笑んでおこう。

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