髪を愛(いと)おしむ

 

ヨメサンの家系は、髪がくろぐろ、ふさふさだ。彼女の亡くなったお父さんもすごい豪髪だった。ネアンデルタールの遺伝子でも入っているのかもしれない。

息子たち3人にどのように遺伝したのか、興味はある。

私の両親は、そんなに髪の毛が豊作ではなかった。私のおじいさん(今の私の年ではないか!)は剥げていた。弟は若い時に髪染めをしていたので、髪を痛めてきたのではないか。今は、美しく真っ白だ。私の方は、ナイジェリアーサウジアラビアと高熱地帯で12年を過ごしたので、熱処理ばかりで髪の毛には気の毒なことだった。

 いずれにしても、60歳の後半からは髪が少し薄くなって、額の砂漠化が進んで、前髪の際が後退しているとは感じていた。

 関西系の家電・日用品の大手の会社(株)ドウシシャのアイデアマラソン研修の最終コースは、ベストの商品アイデアの発表会だった。たまたまその時にテレビの取材が入っていて、商品企画の発表のテレビ撮影が行われた。

広い会議室の四隅に高い三脚に乗ったテレビカメラが発表者を捉えている。

 私は評価判定チームのメンバーで一番奥だったが、私の後ろにもカメラが1台あった。

新製品企画の発表も、撮影も無事に終わり、研修は無事に終わった。

 数日経って、同社から、テレビ取材の番組の上映の予定が知らされた。夜中の番組だったので、ビデオで録画予定にして寝た。

 次の日の夕方、ヨメサンと二人で、新製品の提案発表のビデオを夕食を食べながら、見ようとスイッチを入れた。ドウシシャの取材の番組が始まった後、最後のベストの新製品の発表をしている女性を捉えたビデオ画像を見て、

「ええっ」と、持っているご飯茶碗を落としかけた。私の後ろから発表者を映しているビデオカメラの下を覆うように私の頭が大きく映っていた。その頭が、‟てっぺん禿げたか“でピカピカと大きく、まるく、赤く、光っているではないか。

「こ、これは、私か?」と言うと、

「そうよ」とヨメサンはすらりと言う。

「こんなに薄毛になっているのを知らなかった。手で触ったら髪の毛があるので、もっとたくさん毛があると思ってた」

「何言ってるのよ、ばっちり剥げてるわよ。手鏡で写せば、いつでも見られるわよ。見たことないの。見せたげようか?」と、ここにはデリカシーも思いやりも何もない。

「くそー、要らない。ふさふさ、黒々のお前に言われたくない。そうか、こんなになっていたんだ。月の裏は…」と、ますますヨメサンのふさふさに嫉妬を感じた。こうなると、ヨメサンの友達に、ヨメサンの髪の毛は実は大きなカツラだというデマ噂を流そうかと思った。

 

 この話を、主治の歯科の先生に話したら、「髪の毛を洗う時、シャンプーを止めれば、黒くなりますよ」と気になるアドバイスをもらった。こうなると、もっと調べてみようと、私の通っている図書館で目に入ったのが、「ハゲないシャンプーの方法(板羽忠徳講師:グロービジョン)」というDVDであった。

さっそく借りて、2回見通した。大事なのはマッサージなんだ。がりがりやってはいけないのだ。

 生まれて初めて頭皮に生えてくる毛髪の様子を詳しく知ることができた。歯科の先生のアドバイスのシャンプーを全面的に止めるのは、頭皮の新毛髪の芽(髪の毛の赤ちゃん)の出てくるのを阻害している油ごみを落とせない。私はミューズ殺菌石鹸を使っているので、赤ちゃん毛にはよくないかもしれない。当面はシャンプーの量を減らして、マッサージだと、わずかのシャンプーを二度洗いで、寝る前にDVDの指示通り、両手でマッサージを加えた。そうして3週間、見ると若干黒髪が増えてきているように思った。(いや、間違いなく黒髪は増えている)と、希望の火をともして、ヨメサンのところに行って、

「どうだ。髪の毛、黒い髪が増えてきたと思わないか?」と尋ねた。

「どこが?同じように白いわよ」と、十分に見もしないで、無慈悲な言葉。嘘でも、お上手でも、私の気分と期待をくすぐる思いやりがないのか。くそー、こうなりゃ、『祖母ちゃんの髪はセメダインでくっつけたカツラだ。だから引っ張ったら外れるぞ』というデマを孫たちに流してやる。くやしい。

0 like

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です