結婚して51年を過ぎて、私はヨメサンが宇宙人だと確信した。
その確証として、ヨメサンは今まで眠れなかったことがない。一晩もない。3秒枕なのだ。私が知っている限り、結婚してから51年間、つまり18615日、さっと寝た。
頭を枕に付けて、きっと宇宙の本部に「本日終わり、寝ます」と報告を入れたらさっと寝るのだろう。パチンと電気のスイッチを切ったように寝る。湿気100%のアフリカ・ナイジェリアでも、猛烈極暑のサウジアラビアでも、どんなに暑いところでも、蒸し暑いところでもコロン。(猛烈寒いところでは実験していません)
機内であっても、列車であっても、コロン。
音楽会、劇でも、コロン。肘で突くと、「聞いてるわよ」と劇を聞いて分かるのは、すごい。
(寝られないと困るなあ)と、心配して寝られないイライラしている私をまったく無視して、すっと寝る。これは地球人ではないと疑った。あんまり腹が立つので、ときどき寝ているヨメサンの鼻の穴に2本の指を突っ込んでみた。空気呼吸で生きてるのか、あるいは超小型の原子力バッテリーで寝てるのか試した。
「ううん、やめてよね」と言って、安定睡眠に戻る。こんな機械的睡眠って、地球人じゃない。私がこんなことをされたら、もう無茶苦茶怒って、それこそ寝られなくなる。寝てる間は、地震があっても、まったくヨメサンの振動センサーは無視するのだ。
驚いたことに、ヨメサンは頼まれた原稿の締め切りの前の日も、さっと寝ることだ。この超芸当は、私にはとてもできない。私は頼まれた途端に書く。ヨメサンは締め切りが過ぎた日から考える。この差は数学では理解しがたい。
ここでは詳細は説明しないが、ヨメサンが寝るときは年中同じで薄着。私はまず腹巻、もふもふの睡眠用靴下。ズボン下、毛糸の手袋、睡眠用アイマスクをして寝る。以前に、孫たちと、信州にお泊りに行ったときは、孫に「宇宙人の格好だ」と言われてしまった。
違う。宇宙服を着た地球人なのだ。
私が早く寝て、早朝に仕事をしようとすると、遅くまで勉強をしている。こういう時の宇宙人は意地をはって、地球人を寝させないようにしているのかと思っていた。時がたって、私が遅くまで仕事をして起きていると、ヨメサンはさっと寝てしまう。そして朝の4時ころに起きて、動き回る。
これは、地球人の大切な睡眠を阻止せよと、宇宙の本部から指令を受けているのだろう。